M'ricyyyy

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Trick and Trick

※零入院/5年後 の設定です。零死。










「零崎ー」
ふいに後ろから声がした。顔だけ振り向いてみれば、やはり。
先ずこのような容姿の輩に声をかける者はいない。次に名前を知っている者は少ない。そして忘れることのない声。戯言遣い、鏡。

「ん、どした」
小走りで駆けてくる彼に焦点が合うように、しっかりと見据える。
「見舞い。今日は外に出てもいいのか?」
「外っつっても、敷地内に変わりねぇけどな」
俺は薄く苦笑いする。
勿論、彼は笑わない。

―白い壁。
 白い天井。
 白い床。
 清潔と嫌悪溢れる部屋。
 四角い箱。
 一生縁の無いような場所。―

「部屋に閉じこもってると、空気が悪いから」

―息苦しい空間。
 静寂。―

「そう。あ、零崎甘いもの好きだよな?さっきコンビニで買ってきたんだけど」
そういって手元のビニル袋を漁りだす。
うまく中は見えないが、箱状の物が多い。
多分コンビニスイーツでも大量に買い込んだに違いない。
「ほら、これとか」
取り出したのは筒状のプラスチックに入った、苺のパフェ。
「ティラミスとか、あとシュークリームも。食べるか?」
「おう」
こうして見舞いの品を毎回持ってきてくれて、時間が許す限りずっといてくれる。仕事だって忙しいだろうに。
2人だけで共有する時間が、とてもあたたかかった。
四角い白の部屋が、色に満たされる。
「今日は、いつまでいれるんだ?」
「あと30分くらい、かな。哀川さんと約束してるから」
でもちゃんと、それまではいるよ。
薄く笑う戯言遣いの顔を凝視する。
本当に、無意識のうちに。


「よし、部屋かえろーぜ。久々のパフェだし」
意気揚々と部屋に帰る。ふり
絶対にばれてるけど、見透かされてるけど、それでも
ふりでもしてなきゃやってられない。

「そうだね」
「もしかしてさ、ハロウィンパッケージのお菓子とか買ってきた?」
「チョコとかクッキーとかなら」
「充分だぜ、ありがとな」
「あんまりはしゃぐなよー、一応病人なんだから」
「へいへい、分かってるよ」

幸せ。
今だけ。
いつかなくなる。
消えてしまう。

病室へと続く階段の。
平面から、落下する。
銀のワゴンが、滑る。
そして目の前へと―。
激突、落下、放物線。
視界の横をスライド。
歪んだ戯言遣いの顔。
一度、バウンドして。
白い踊り場が撥ねる。
階段をスライドする。
頭と、背中、摩擦熱。
地に安定する頃には既に俺が通った後には幾つもの赤い飛沫があって。
視界が霞む、閉じられていく。
後頭部から腰の辺りにかけて、生暖かい感触が支配する。
パフェ、食べてないのに。
きっと俺に解体された奴等も、こんなんだったんだろうな。
寒さが全身を襲う。
心地よい何かが、俺を誘う。
ゆっくりと、目を閉じれば。


それで、御仕舞。






***end




→あとがき
ハロウィンを真面目にほのぼのと書きたかったのに、あれれ・・・
タイトルは零と壱の両方へのいたずらという意です。

2009/10/31

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